電気通信大学 情報・ネットワーク工学専攻/II類 電子情報学プログラム
高橋弘太研究室

リモート合唱の概要と研究実績について

リモート合唱の概要

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,多くの合唱団や学校で合唱活動の中止を余儀なくされました.これを受けて,ITエンジニアグループ「Harmorearth(ハモラス)」 は合唱作品をリモートで制作する,リモート合唱の取り組みを行っています.

リモート合唱では複数の個人歌唱音源を録音し,歌唱のタイミングや音量等を調整のうえミキシングして合唱作品に仕上げます. 従来はこうした作業を手作業で行っていましたが,100名を超えるような大規模な合唱を手作業でミキシングすることは困難とされています. そこで高橋弘太研究室では,「Harmorearth」と共同で,ディジタル信号処理を用いてリモート合唱のミキシングを自動化する研究を行っています.

実績① リモート合唱プラットフォームの構築

研究成果の一つとして,2021年5月,作成した自動ミキシングプログラムをリモート合唱プラットフォーム「tuttii(トゥッティ)」 に実装し,公開しました(2022年2月現在,システム移行のため休止中).

「tuttii」を使用したリモート合唱のシステムを以下に示します.

図. 本研究で構築したリモート合唱のシステム
各歌唱者は指揮動画と伴奏音源を聴取しながら歌唱し,個人歌唱を録音します. 録音した音源を「tuttii」サーバに複数アップロードすると自動でミキシングが行われ,合唱作品が完成する仕組みとなっています. 2021年5月の実装段階では,自動ミキシングプログラムに以下の機能を導入しました.

・音源時間軸の調整
・サブソニックフィルタ
・各歌唱者の音量調整
・各歌唱者のパン振り
・リバーブ付加

いずれも手動での設定を必要としない,完全自動の処理を可能としました. このほか,2022年1月現在,各歌唱者の発声タイミングを音韻ごとに細かく自動調整する手法の研究を行っています.

実績② テレビ・ラジオ番組等への作品提供

本研究では,作成した自動ミキシングプログラムを適用したリモート合唱作品を,テレビ・ラジオ番組やイベントに提供する取り組みを行ってきました. 以下にその実績を紹介します.


表. 研究成果を適用したリモート合唱作品の提供実績
日付 番組・イベント名 提供作品 音源数
2020/09/09 テレビ東京「WBS」 「恋音と雨空」 11
2020/09/20 Harmorearth「機械vs人間プロジェクト」 「心の瞳」 18
2020/09/24 エイベックス「合唱のアソビバ」 「はじまりのとき」 6
2021/01/02 FM福岡「おもろい家族」 (番組ジングル) 16
2021/03/29 Harmorearth「初演プロジェクト」 「音楽である私」
「音楽がぼくに囁いた」
41
38
2021/03/31 Youtubeチャンネル「あされん」コラボ 「旅立ちの日に」 33
2021/03/31 FM福岡「50周年記念特番」 「時代」 170
2021/04/20 中学校吹奏楽部「リモート吹奏楽」 「ルパン三世」
「美女と野獣」
「宝島」
21
26
26
2021/06/15 「デジタルTEPIA」出展 「大地讃頌」 5
2021/10/31 FM福岡「九州ゴスペルフェスティバル2021 in 博多」 「OH HAPPY DAY」 64

このほかに,社会人合唱団が歌う「Ave Maria」,「雨」,「群青」,「ほたるこい」のリモート合唱作品をミキシングしました. 以上を合計すると,これまでに計17作品,539個の音源に対して本研究の成果を適用してきました.

「超合唱」の実現

本研究ではこれまで,コロナ禍における従来の合唱の代替となることを目指して研究を行ってきました. 一方,リモート合唱がアフターコロナの時代にも価値を持つように,現実を超越した合唱である「超合唱」の研究もスタートしています.

例えば,現実で1000人規模の合唱を行った場合,歌唱者間に大きな距離が生じるため,全員の歌唱タイミングをピタリと一致させることは困難です. しかし,リモート合唱では歌唱人数がどれだけ増えようとも,全員の歌唱タイミングがピタリと合うように調整することが可能かもしれません. あるいは,タイミングだけでなくピッチのずれさえも調整し,最適なハーモニーに仕上げることも可能かもしれません.

このように,「超合唱」を目標とするリモート合唱の研究は,今後さらなる発展を遂げることが期待されています.


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