電気通信大学 情報通信工学科 昼間コース・夜間主コース 3年生 5学期  
[授業科目名]  信号処理論  2単位  (本学学生に配布されたシラバスのHTML版)
[担当教官名] 高橋 弘太    [研究室] 西 2 号館 605 号室
使用教科書名等
 各回の講義の開始時にプリントを配布し, プリントにそって講義を行なう.しかし, ひとつの学問を修得しようとした場合,自分で選んだ本を最低1冊 (できれば2〜3冊)は購入するべきと考える. 以下の(1)は,広範囲の事項が書かれた標準的な本.修士課程に進んでも使える. (2)は,重要事項を手際良くまとめた本.2冊めの参考書として最適. (3)は,高橋と同じ学科の三橋助教授による教科書.厚くはないにもかかわらず, 演習問題の解答例などもつき,親切で丁寧な本.
参考書(1) :電子情報通信学会編辻井重男監修 『ディジタル信号処理の基礎』 コロナ社
参考書(2) :テレビジョン学会編今井聖著 『信号処理工学』 コロナ社
参考書(3) :三橋渉著『信号処理』 培風館
履修しておくべき科目名
線形代数やフーリエ変換などの知識は必要である. しかし,本講義は,なるべく他科目とは独立に存在できるように, 必要な知識を復習しつつ進めるつもりであるので, 低学年での勉強を少しさぼってしまった人も,新たな気持で挑んで欲しい.
学問紹介
 話をしている人の前にマイクロホンを置いてみます. マイクロホンの出力電圧は時間の関数として x(t) と書けます. x(t) が信号です. x(t) をアンプにつないでスピーカを鳴らせば,誰が何を喋っているか分かります. また,背後の道路騒音も聞こえるかもしれません. つまり,x(t) にはそれら全ての情報が含まれているわけです.
 さて,x(t) を機械に理解させることを考えましょう. ただ x(t) を眺めているだけでは, x(t) は,単なる1変数の 関数ですから何もわかりません.
 そこで, x(t) に色々な変換を施す必要があります. 取り出したい情報の種類に応じた適切な変換を施すことで 取り出したい情報がくっきりと見えてきます. 歌っている人の音程を推定するには,それに適した変換があります. 何を喋っているかを理解するためには,また別の変換(処理)を施さなければ なりません.本講義では,これら色々な変換と,それを理解するための 基礎理論について学びます.
 また, x(t) から道路騒音を消して音声だけを取り出したいという こともあるでしょう.x(t) から音声だけを抽出した y(t) を作る, これは,フィルタリングという技術です. 本講義ではフィルタリングについても考えます.
 こんどは逆に,道路騒音について考えましょう.道路騒音の波形 x(t) は, 測定のたびに波形がランダムに変わりますから, どのような波形であれば道路騒音であるかと規定することは難しいことです. しかし,人間が x(t) を聞けば,それが道路騒音らしいかどうかはすぐにわかります. つまり,ランダムとは言っても,道路騒音 x(t) は,何らかの法則に支配されているわけです. 信号処理論では,道路騒音を確率的な信号として扱い, 道路騒音波形を支配している確率法則を論じます. この分野を不規則信号論と言います,講義では,信号の変換を学んだ後, この不規則信号論についても学びます.
 地震波も信号です. センサから得られる情報は,ほとんどが時間の関数 x(t) として得られますから すべて信号です.一枚の白黒写真は f(x,y) と表現できますから2次元の信号です. ビデオで撮った動画像は f(x,y,t) ですから3次元の信号です. このように,信号処理は工学におけるほとんど全ての分野で 重要な技術ですし,新しい理論を考えるときの基礎としても不可欠です.
 本講義で,何の変哲もない関数 x(t) から,いかに多くの情報を引き出せるかを 学んで下さい.
キーワード
 フーリエ変換,線型シフト不変システム, 帯域制限と時間制限,サンプリング定理, 離散フーリエ変換(DFT),高速フーリエ変換(FFT), z変換,逆z変換, ディジタルフィルタ,極と零点, FIRフィルタ,IIRフィルタ,窓関数, 確率過程, 自己相関,相互相関,パワースペクトル, ガウス性不規則信号,スペクトル推定法, ARモデル,最大エントロピー法, ウィナーフィルタ,適応フィルタ
成績評価の方法
 期末試験80%,レポート提出20%. 試験は持ち込み不可. 最終講義で本試験の出題傾向を示すために模擬試験を実施するので, これには必ず出席すること.
個人的データ
 視覚情報と聴覚情報のセンサフュージョンの研究をしています. センサフュージョンとは,多数の異なるセンサの情報を融合 することで,一個のセンサでは不可能な高性能・知的な情報処理を 実現する技術です. 信号処理論は,この研究の基礎としても不可欠な理論です.
学生へのメッセージ
 選択科目ですが,担当教官としては全ての情報通信工学科3年生に学んでもらいたいと考えています. 選択科目にもかかわらず昼間コースを2クラスに分けているのは, 実際に多くの学生がこの科目を選択していることをあらわしています. なお,卒研の配属研究室によっては,本科目の履修が強く望まれますし, 情報通信工学実験でも信号処理は必修ですので, これらの点からもぜひ履修するようにして下さい.

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